研究概要 |
動脈硬化症の発症・進展には,安定な脂質酸化物である多価不飽和脂肪酸由来の酸化物(isoprostane類)やステロール酸化物の関与がある.これら安定な酸化物はヒトや動物が日常に営むなかで必然的に発生するものであるから,本研究はそれらの発生を極力抑制するとともに,発生したこれら酸化物が動脈硬化性疾患の発症や進展に導く分子機構を明らかにし,その知見に基づいてこれら酸化物の好ましくない作用を遮断するのに有益な食品成分を見いだし,動脈硬化抑制的食品を設計することを目標にしている.これまでの研究成果は以下の通りである. (1)GC/MSを用いて2種類のisoprostane (8-isoprostane F2αおよびdinor)を定量する方法を確立,尿,血漿と大動脈のそれらをアポE欠損マウスおよびその野性型(C57BL/6J)で測定した.その結果、予想に反して,これらisoprostane類の尿,血漿,大動脈における濃度は動脈硬化病変の程度とは直接的な関係が無いことが明らかとなった.食品成分摂取との関係について調査したところ,抗酸化作用がある大豆に含まれるイソフラボンの摂取は尿中のisoprostane排泄量に影響しなかったが,コーヒーでの含有量が高いクロロゲン酸はその排泄量を顕著に減少させた.これらの結果は,生体酸化のバイオマーカーであるisoprostaneの測定の有用性について疑問を投げかけるものである.(2)マクロファージからのコレステロールの搬出とステロール酸化物との関係について検討した.まず,22-ヒドロキシコレステロールがマクロファージからのコレステロール搬出を亢進するとともに,転写調節因子であるLXRのリガンドとしてコレステロール搬出タンパク質であるABCA1の発現量ならびにタンパク質量を増加させることを確認した.コレステロール,カンペステロールとβ-シトステロールの酸化物中にはマクロファージにおけるコレステロールの搬出を促進あるいは抑制するものが含まれていることを明らかにすることができた.(3)動脈硬化を抑制する食品設計を行うために,アポE欠損マウスを用いて,タンパク質,脂質,ビタミン,非栄養素の抗動脈硬化作用を検討し,植物性タンパク質,イソフラボン,α-トコフェロール,多価不飽和脂肪酸に抗動脈硬化作用を見いだした.特にイソフラボンは、動脈におけるマクロファージ遊走誘因タンパク質の発現を抑制することが明らかになった。
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