研究概要 |
木材を窒素の存在下で熱処理したとき誘電的性質に現れる変化を,周波数20Hz〜1MHz,温度-150〜20℃の範囲で調べた。また,水分吸着に現れる変化を,20℃での水分吸着等温線と吸着水に関係する誘電緩和を測定して調べた。熱処理による試料の収率は,200℃まで変化なく,200〜300℃で急激に減少し,300℃以上で緩慢に減少し,600℃以上でほぼ一定値となった。全乾状態の試料の繊維方向における誘電的性質は,300℃を境として,著しく変化した。-30℃でのCole-Coleプロットから求めたメチロール基の配向に基づく緩和強度は,200℃まで変化なく,それ以上の温度で急激に減少し,300℃でほぼ0となり,メチロール基は消失した。300〜450℃では,測定の範囲内において誘電緩和は観測されなかった。しかし,500〜600℃において,一つの大きな緩和が認められた。600℃の結果について,20℃でのCole-Coleプロットより求めた緩和強度は,約65の大きな値を示し,プロットの軌跡は,半円に近くなった。500℃以上になると,試料の電気伝導率が著しく増加することから,高い伝導率を示す領域が部分的に形成されるものと考えられた。Maxwell-Wagnerの不均一誘電体理論を適用し,定量的な考察を行った結果,この緩和が界面分極に基づくものと推定された。吸着等温線は,300℃まで逆S字型を示したが,処理温度とともに,含水率は,全ての相対湿度の領域で低下した。400℃以上では,等温線は,逆S字型を示さなくなり,300℃に比べ,全ての相対湿度の領域で含水率が増加した。500℃と600℃では,相対湿度60%以下で含水率が減少した。700℃では,含水率は,600℃の結果に比べ,相対湿度20%以上の領域で大きく増大し,50%を越えると飽和した。誘電的性質の測定においても,300℃を境として,吸着水に関係する緩和に著しい変化が認められた。以上の結果から,水分吸着は,300℃を境として変化し,水酸基などの吸着点に吸着する機構から,微細な空隙に凝縮する機構へと変化するものと考えられた。
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