研究分担者 |
上田 拓史 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 助教授 (00128472)
藤原 建紀 京都大学, 農学研究科, 助教授 (30243075)
西田 睦 東京大学, 海洋研究所, 教授 (90136896)
中山 耕至 京都大学, 農学研究科, 助手 (50324661)
田川 正朋 京都大学, 農学研究科, 助教授 (20226947)
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研究概要 |
2002年3月〜7月に筑後川河口域ならびに大牟田地先の干潟汀線域等でスズキ稚魚を採集するとともに汽水性かいあし類Sinocalanus sinensisの有明海における分布を調べた.これらの試料とこれまでに集積した試料について,耳石日周輪解析,耳石微量元素分析,胃内容物分析,ミトコンドリアDNA分析などを行った. 1)1995年から1999年に採集されたスズキ稚魚の耳石日周輪を調べた結果,ふ化日(産卵期)は11月上旬から2月下旬に及び,年により1ヶ月程度のずれはあるものの,12月下旬をピークに前後1ヶ月に集中した.また,筑後川河口の汽水域に出現する群(河川溯上群)と大牟田採集群(非溯上群)の間にふ化日の差はみられなかった. 2)耳石のSr/Ca比より推定した淡水遡上個体の割合は1997年には約50%であったのに対し,1999年では20%弱とその値は年によって大きく異なった.一方,淡水に溯上した個体のミトコンドリアDNAハプロタイプがタイリクスズキ型に著しく偏る点は各年とも共通して認められたが,大牟田汀線付近に出現するスズキでは年によってハプロタイプ型の比率は異なった.初年度の知見とこれらの知見を総合すると,有明海には少なくともタイリクスズキの遺伝的影響を強く受けた集団とその度合の弱い集団が存在し,前者は淡水域まで溯上する傾向が強いが,浮遊期の輸送条件等によって河川に溯上する割合は年によってかなり異なると考えられた. 3)スズキを含む有明海特産魚の稚魚は低塩分域に集中し,その胃内容物の大半は汽水性かいあし類Sinocalanus sinensisで占められた.本種は筑後川では下流域の高濁度水塊の発達する低塩分汽水域に集中し,また,有明海に注ぐ河川の中では湾奥部の高濁度水が形成される川のみに分布することが確認された.有明海特産種の存在や存続は,高濁度水塊-S.sinensis-特産種と連鎖する"大陸沿岸遺存生態系"によって支えられていると推定された.
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