研究概要 |
癌の転移・浸潤を癌細胞による形態形成プログラムの借用・誤用現象と捉え,その機序解析を進めてきた.その過程で,形態形成のマスター調節遺伝子のひとつであるHOXD3をヒト肺癌A549細胞に過剰発現させると,転移・浸潤・運動能が増強するとともに様々な転移関連遺伝子(インテグリンβ3,MMP-2,uPA, E-カドヘリンなど)の発現が変化することを見い出した.本研究では,このHOXD3を中心とした転移関連遺伝子ネットワークの解明をめざし,特にHOXD3過剰発現によって発現の変化する細胞接着因子の役割について解析した.その結果,1)HOXD3過剰発現による細胞運動性の亢進は,インテグリンαvβ3依存性であること,2)HOXD3により発現変化のみられた転移関連遺伝子30個のうち15個が,インテグリンαvβ3によるシグナル伝達経路を介して転写活性化あるいは抑制させること,3)HOXD3はTGF-βを潜在型から活性型に変換し,その結果TGF-βを介する自己分泌型のシグナルが細胞内に入ること,4)TGF-βによるシグナルはI型コラーゲンゲルへの浸潤性や運動性を亢進すること,5)TGF-βによるシグナルはHOXD3により発現変化のみられた転移関連遺伝子30個のうち9個(これらはインテグリンαvβ3により発現変化する遺伝子とは異なる)の遺伝子の発現変化に関与すること,が明らかとなった.
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