研究概要 |
B型肝炎ウイルスエンベロープタンパク粒子をヒト肝細胞など特定の細胞に対するDrug Delivery System(DDS)として開発し,遺伝子,抗ガン剤,タンパクなどを運搬する手段として応用しようとする平成13年度から始まった本研究により,B型肝炎ウイルスエンベロープタンパク粒子が安全性と組織特異性に優れたシステムであることが証明されてきた。この粒子は,ヒト肝細胞癌やヒト肝組織にin vitroのみではなくin vivoでも静脈注射により遺伝子や低分子化合物を特異的にかつピンポイントに運び込むことが可能であった。すなわち,ヒト肝細胞癌組織をヌードマウスやヌードラットの皮下や腎皮膜下に移植したモデルに緑色蛍光低分子化合物であるカルセインや緑色蛍光遺伝子を封入したB型肝炎ウイルスエンベロープタンパク粒子を静脈注射したのち犠死せしめ,ヒト肝細胞癌組織,ラットやマウスの肝組織をはじめとした各種臓器を摘出して固定し組織切片を作製して,蛍光顕微鏡にて緑色蛍光を測定すると,ヒト肝細胞癌組織でのみ緑色蛍光が検出され,ラットやマウスの筋肉組織や腎組織はもちろん肝組織でも緑色蛍光は検出されなかった。また,手術時に得られたヒト肝組織をSCIDマウス腎皮膜下に2mm程のスライスを移植し抗アシアロ抗体を投与することにより2週間以上生着可能となることと,本モデルにおいてもカルセインを封入したB型肝炎ウイルスエンベロープタンパク粒子を静脈注射するとヒト肝組織でカルセインを検出できることを証明した。さらに,本粒子に血液凝固因子の第VIII因子または第IX因子遺伝子を封入しヒト肝細胞癌組織を移植したヌードマウスに静脈注射するとマウス血中でヒト第VIIIおよびIX因子が検出され,血友病遺伝子治療薬に発展する可能性が示された。今後,さらなる発展が期待される。
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