研究概要 |
これまで、我々は上丘吻側の限局した部位の微小電気刺激により調節反応が誘発されることをネコを対象に明らかにしてきた。(Sawa and Ohtsuka,1994)。また、大脳皮質の輻湊・調節関連領域(the lateral supra-Sylvian area)からの下行性出力が上丘吻側の同部位に特異的に投射することを証明し、この領域を上丘調節関連領域と名づけた(Ohtsuka and Sato,1996)。今回我々は、この上丘吻側領域における輻湊-調節の機能統合機構を明らかにすることで斜視の病態解明に到達することを目的に3匹の覚醒ネコを用い研究を行った。両眼の水平・垂直眼球運動をサーチコイルによって記録した。タングステン電極をマニピュレーターによって上丘内に刺入し、先端部が上丘内に入っているか、視覚刺激と自発的衝動性眼球運動に対するニューロン応答によって確認した。上丘吻側の調節関連領域の電気刺激は、パルス幅300μ秒の陰性矩形波(電流強度,頻度,時間は各々10-40μA,125-500Hz,125-500ミリ秒の範囲)を用いた。上丘吻側部のほぼ限局した領域で、非共同性眼球運動(convergence)が約10μAの刺激閾値をもって誘発された。この非共同性眼球運動の平均振幅は、3.9°+/-0.9°、平均潜時は83±47ミリ秒であった。誘発された非共同性眼球運動の大きさは刺激強度と正相関し、刺激開始時の輻湊角とは負の相関を示した。また、この領域の電気刺激は自発サッケードを抑制した。ついで、1頭のネコに輻湊訓練を行い、非共同性眼球運動が誘発された領域の化学的抑制(0.5%Muscimol,0.5μlの微小注入)が輻湊運動に与える影響を検討した。片側の抑制によって、輻湊は一過性に抑制された。これらの結果から、ネコの上丘吻側部が調節のみならず、輻湊運動にも関与していることが示唆された。
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