研究概要 |
過去の疫学データから,慢性疼痛の有病者率は女性の方が高く,その理由の一つとして,女性の疼痛感受性が男性と比較して高いことがあげられている.そこで,本研究では慢性の顎顔面部痛の病態を明らかにすることを目的として,健常者の三叉神経領域における神経選択的電流知覚閾値ならびに痛反応閾値,さらに冷覚刺激および温覚刺激による知覚閾値ならびに痛反応閾値を計測し、知覚閾値ならびに痛反応閾値に性差が存在するかどうかを検討した. 1.三叉神経領域における電流刺激による知覚閾値ならびに痛反応閾値の測定 1)電流知覚閾値の信頼性 電流知覚閾値の測定結果の信頼性をtest-retest法により検討した結果,2000,250,5Hzの電気刺激時の級内相関係数は,それぞれ0.62,0.80,0.86で,その信頼性はきわめて高いことが明らかとなった. 2)電流知覚閾値ならびに痛反応閾値の性差 三叉神経領域の微弱電流刺激に対する知覚閾値については,いずれの周波数においても男性に比較して女性の方が有意に低い知覚閾値を示すことが明らかになった.一方,痛反応閾値については,250Hz,5Hzのいずれの周波数においても平均値は女性のほうが低かったが,男女間で有意差を認めなかった. 2.三叉神経領域における温度刺激による知覚閾値ならびに痛反応閾値の測定 1)冷覚ならびに温覚刺激に対する知覚閾値の性差 温度刺激に対する知覚閾値の性差に関しては,温覚刺激,冷覚刺激とも男女間に有意差を認めなかったが,両刺激において平均値は女性のほうが低く,被験者数が増加すれば有意差が現れるものと予想された. 2)冷覚ならびに温覚刺激に対する痛反応閾値の性差 温度刺激に対する痛反応閾値の性差に関しては,温覚刺激,冷覚刺激とも男女間に有意差を認めなかった. 以上の結果は,健常者においては女性の方が男性と比較して三叉神経領域における触覚や圧覚に対する感覚がより鋭敏であることを示す一方,AδやC線維のような疼痛関連神経線維による侵害受容の閾値には性差は認められないことを示している.このことから慢性疼痛の発現頻度の性差には侵害受容の生理機構ではなく,知覚の性差と中枢における疼痛認知機構が関連しているものと推察される.
|