研究概要 |
人口の高年齢化に伴い,アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患や,脳血管障害に起因する脳血管性痴呆症など,高次神経系機能障害に関連した疾患が増大している。本研究は,神経変性や脳血管損傷の発症機序の生化学的・分子薬理学的解明,神経系や血管系を標的とした新規生理活性物質の探索を行うことを目的とし,以下の新知見を新たに得た。1)細胞内の酸素ラジカル消去系に関与しているSODをN, N-diethyldithiocarbamate(DDC)で阻害することで,培養神経細胞に酸化ストレスを与えると,アラキドン酸生成酵素の一種である細胞質型ホスホリパーゼA2の発現上昇がmRNAレベル,蛋白レベルで確認された。2)細胞内生理活性物質と考えられているリピドメヂエーターのうち,ある種のセラミドはアラキドン酸代謝を促進し,スフィンゴシンやその内在性誘導体はアラキドン酸代謝を抑制することを見いだした。幾つかの合成スフィンゴシン誘導体がアラキドン酸代謝-ホスホリパーゼA2活性を調節すること,さらには神経細胞死に関係するMAPキナーゼ活性を変化させることを見いだした。3)TNF刺激による細胞死が,アラキドン酸代謝と関連し,細胞内シグナル伝達系を介したネクローシスを促進する可能性を見いだした。4)内在性因子のアナンダマイドが神経細胞のアラキドン酸代謝を促進することを見いだし,バニロイド受容体との関連性を明らかにした。5)天然薬草由来のアルカロイドであるメサコニチンやメトラガイナ類が血管系や神経系に作用するメカニズムを明らかにしその有用性を示した。
|