研究概要 |
肺上皮を構造する二種の細胞(肺気道上皮及び肺胞上皮)のうち、気液界面培養条件下で高感度であった肺胞細胞を利用して,近年都市大気汚染の元凶とされている浮遊粒子状物質(SPM)の直接負荷による新規評価系の確立に焦点をあてて研究を行った.国立環境研究所や旧国立公衆衛生院の研究グループによって採取調整された国内SPMサンプルを,気液界面培養されたモデル肺胞細胞(A549)に,さまざまな表面密度で負荷したところ,負荷量に対して48時間後の生存率に良好な用量作用関係が見られたことから,ヒト肺胞への実際の曝露形態を忠実に模倣した急性毒性の評価が可能であることが明らかとなった.一方,用いたSPMサンプルに吸着している種々の化学物質をジメティルスルフォキシドを用いて溶出し,最終濃度0.5%となるように液中培養で負荷したところ,48時間では全く毒性が検出されなかった.これは,ジメティルスルフォキシドの最大添加濃度の制限によるものであった.すなわち,モデル肺胞の気液界面培養を利用する新規アッセイ系は,ヒトへの曝露形態を模倣できるばかりでなく,高濃度のSPM負荷が可能となるため,迅速または高感度の検出が可能であるとの結論を得た.一方,肺胞への障害性評価への利用に加えて,肺胞を経由した体内への毒性物質取り込み評価への利用をも検討した.ここでは,SPMに吸着された化学物質のうち,肝細胞のチトクロームP4501A1/2活性(EROD活性)として生物応答を指標として包括的な評価が可能な芳香族炭化水素に着目し,肺胞上面に負荷された総量に対して,48時間後でどの程度が基底膜側(体内側)に透過してくるのかを,バイオアッセイにて定量化した.その結果,48時間では,特に表面負荷濃度が低い場合に,最大で10-20%の透過が見られることがわかった.このようなin vitro肺胞モデルにおいて,SPMから肺胞上面への薄い液層への化学物質の溶出・細胞内への透過・細胞内への蓄積・基底膜側への透過といった現象を記述する簡単な数理モデルを構築し,生物学的・物理化学的パラメータを決定,それをin vivo条件(ラットやヒトへの長期曝露)に拡張することで,動物実験を経ずにヒトへのリスクを予測する手法を開発した.
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