研究概要 |
カーボンナノチューブ(CNT)陰極を用いたガス放電の実験により、以下の知見が得られた。 (1)電極間距離が0.1mmと短いときは、アルゴンのガス圧によらず、CNT陰極はステンレス陰極よりも低い放電開始電圧を示した。しかし、電極間1mmにおいては、低圧力の範囲(100Pa〜800Pa)ではCNT陰極が低い放電開始電圧を示すが、高圧力(1000Pa〜1700Pa)ではその差は縮まり,さらに電極間距離が10mmに広がると,圧力が高くなるにつれて、ステンレス陰極の方が低い開始電圧を示した。 (2)放電開始電圧は.電極上のCNT膜の構造・組織にも依存した。SWNT-PおよびMWNTでは,放電電圧の低減の効果がある程度認められたが,CNTが密集して垂直配向したCNT膜では,その効果はほとんど見られず,高い放電電圧を必要とする場合が多かった。 (3)CNTを陽極に用いると,放電開始電圧が逆に高くなった。 (4)放電維持電圧について、電極間0.1mm及び1mmのとき、低圧力範囲(100Pa〜1200Pa)ではCNT陰極の方が低い値を示した。しかし、電極間0.1mmで高圧力範囲および電極間10mmで全圧力範囲においてはステンレス陰極の方が低い値を示した。 (5)アルゴンガス中の不純物濃度により、放電開始電圧が変化し,ペニング効果が示唆された。 (6)放電実験後,CNT膜の金属電極表面からの"剥がれ"がしばしば観察された。 以上のように、CNTを放電管の陰極に塗布することにより,放電開始電圧の低減にある程度の効果が認められたが,その電圧の減少割合は高々10%程度であった。CNTの放電管への工業的利用には,放電開始電圧をさらに低減させるCNT陰極の構造の究明と,CNTの剥がれの問題を防止が必要であることがわかった。
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