研究概要 |
生体の熱物性測定は,サーマルプローブを組織に穿刺して測定するのが一般的である.しかし,生体組織の熱物性は外部からの刺激に敏感に反応するのに加え,この方法ではプローブまわりの出血やプローブと組織の密着度が測定結果に影響を及ぼすのは避けられない.したがって,生体を対象とする場合には,非侵襲的で迅速な測定が望ましい.そこで,本研究では,試料の表面をCO_2レーザで局所的に加熱し,その表面温度の時間的変化を赤外線カメラで測定することにより,試料の熱伝導率と熱拡散率を同時に測定する非侵襲的熱物性測定法の開発を行った.この方法では,加熱中心部の温度変化と,予め数値解析によって求めておいた結果を比較することにより熱伝導率と熱拡散率を決定する. 以下に本研究のまとめを示す. 1.レーザ光の透過と物質による体積吸収を考慮した解析を行い,吸収係数の影響を明らかにした. 2.対流および放射による表面からの熱損失が比較的小さければ,その程度に依存しない計算結果の整理法を明らかにした. 3.実験に用いるレーザの強度分布を,照射面との距離をパラメータとして明らかにした. 4.アクリルを試料とした測定値を文献値と比較し,本測定法の妥当性を明らかにした. 5.ラット肝臓の熱物性をin vivoで測定した.呼吸による肝臓の動きを回避した実験を行い,測定が可能であることを示した. 6.本測定結果,特に熱拡散率は吸収係数の影響を大きく受けることが明らかになった.したがって,この点を克服する測定法の改良が望まれる. 7.測定法の確立には,測定前の試料内温度の不均一の影響,および試料表面が平面でない影響等を明らかにする必要がある. 8.本測定法は非侵襲的で出血を伴わないため,血液灌流の影響を明らかにするのに有効である.
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