研究概要 |
現在,白内障手術の方法として超音波水晶体乳化吸引術が主流であるが,この手術で水晶体を吸引除去する際の前房内圧の急激な低下により後嚢破損などの術中合併症を引き起こす危険がある.本研究では,白内障手術時の前房内圧を能動的に制御することにより合併症を回避する手術装置の開発を目的として,(a)臨床応用可能な前房内圧制御手法の検討,(b)前房内圧推定法の検討,(c)前房内圧制御のためのアクチュエータの開発とアクチュエータを備えたハンドピースの試作を行った.その結果,それぞれに関して次のような成果があった. (a)前房内圧を常に一定値に維持する前房内圧一定値制御法と前房内圧の急激な変化のみを抑制する前房内圧微分値制御法の二つについて,前房内圧模擬実験装置による制御性能の確認と臨床応用可能性の検討を行い,いずれも前房内圧低下を十分抑制できる制御性能を持つが,制御装置のサイズや故障時の安全性から,前房内圧微分値制御の方がより適した制御法であることがわかった. (b)注入側と吸引側の圧力の測定値と前房内圧の測定値を比較することにより,注入側の圧力が直接測定した前房内圧とほぼ同様の変化をし,前房内圧微分値制御に必要な前房内圧変化が注入側のセンサにより測定可能であることがわかった. (c)手術装置のハンドピースに組み込める小型のアクチュエータを開発した.また,このアクチュエータを備えたハンドピースを試作し,前房内圧模擬実験装置によって十分な制御性能を持つことを確認した. 以上のように,本研究で試作した前房内圧制御装置は,十分臨床応用可能な制御性能と安全性を持つものであり,白内障手術の安全性の向上に貢献できるものであると考えられる.ただし,現段階では実験装置での検討であり,臨床応用を行うためには,豚眼などを用いた模擬手術等での詳細な性能の確認を行う必要がある.
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