研究概要 |
工業的に重要な多孔質固体はナノ細孔を有する場合が多い。細孔評価は,通常,窒素吸着法を用いるが,Kelvinモデルはナノ細孔径を過小評価してしまうにもかかわらず,ほぼ普遍的に用いられている。本研究では,細孔壁引力が相当に寄与し得るナノ空間内での特異な相挙動の理解に立ったナノ細孔径評価手法の構築を目指し,以下の成果を得た。 1.吸着等温線測定:まずFSM-16を用い,「細孔壁引力強度」を組み込んだ凝縮モデルの妥当性を検証した。さらに,種々の材質の多孔質および非多孔性材料について,窒素のほかアルゴン,メタノール,シクロヘキサンを吸着質に用い,種々の組み合わせで吸着等温線を測定し,相互作用強度推定のデータベースを得た。 2.相互作用強度検討:窒素吸着に対して我々が提案した相互作用同定手法は,相互作用が小さい吸着質については改善が必要と判明し,低圧部でのHenry則領域を活用した新たな同定手法を提案した。これに基づけば,提案モデルは,吸着質が異なっても,整合性のある細孔径推定が可能であることを検証した。なおKelvinモデルは,当然,これに能わない。 3.AFMによる凝固実験検討:シクロヘキサン中でのカーボン粒子表面-グラファイト基板間のフォース測定に取り組み,凝固現象を検出することに成功した。前項で定めた相互作用強度は,実測された凝固点上昇度と良い整合性があることが確認でき,凝縮現象と凝固現象を,単一の物性値で統一的に説明することに成功した。 以上の検討および分子シミュレーションをも援用した検討により,細孔壁引力を考慮した凝縮および凝固モデルの適用性は,対象とした種々の系において良好であることを検証した。種々の相互作用強度データと組み合わせ,以上の成果は,特異なナノ空間での相挙動から細孔径分布を同定する統合手法として結実したと考える。
|