研究概要 |
コールドスプレーイオン化法と言う新しい手法を開発した.これは質量分析においてイオンを生成する手段であり,主に不安定な溶液中の分子に適用される.本手法は約-80〜10℃のスプレーにより極めてソフトにイオン化を行うものであり,非水素結合性相互作用を破壊することなく分子イオン等を観測することができる.我々はこの本手法を溶液中不安定な種である反応中間体や不斉触媒,および超分子化合物や生体基本分子に適用した.特に超分子化合物の高次会合体の解析について顕著な解析結果を得た.エレクトロスプレー法等の従来の手法では観測されない熱および空気等に不安定な化合物の構造解析に成功した.本手法では不安定分子に多数の溶媒が付加することにより安定したイオンを生成すると考えられる.グリニャール試薬の平衡構造の解析においては,新規に同反応にとって重要な分子種を同定し,活性種の構造研究に寄与した. さらに,本手法を生体を構成する基本的な分子であるアミノ酸,核酸,糖及び脂質などの溶液状態の解析に適用し,いずれもNa^+が付加した分子量の大きな連鎖構造由来の1価イオンを生成するなど興味ある知見を得た.即ち,これら生体基本分子は溶液において水素結合に基づく比較的大きな会合体を形成している可能性が示唆された.これを連鎖会合体と呼ぶこととし,この会合体が溶液中の金属イオンなどにより会合状態を変え,比較的小さなまとまりのある単位会合体またはメタクラスターを形成することを見だした.これらの溶液中での会合体構造変換は生体分子の活性と密接に関連する可能性があるため今後の展開が期待される. 本研究によりコールドスプレーイオン化法が溶液中の安定種の動的な解析に有効であることが示され,非水素結合性相互作用に基づく生体分子の会合状態の動的過程を解析する道を拓いた.
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