研究概要 |
ヒトの肝臓には,化学物質の毒性発現に大きく関与するCYPが胎児期から発現するが,齧歯類などの実験動物では発現しない.したがって実験動物にヒト胎児に発現するCYPを導入し,化学物質のヒト胎児における毒性をin vivoで検討することのできる系を開発することは重要である.ヒト胎児には,肝に発現する主要なCYPであるCYP3A7に加えて,種々の臓器にCYPIA1,CYPIB1およびCYP2E1が発現している.一方,ウサギの胎仔に発現するプロスタグランジンG/H合成酵素(COX)-1または2が,サリドマイドの催奇形性の発現に関与することが示唆されている.そこで本研究では,胎仔期においてヒトCYPIA1,CYPIB1,CYP2E1,CYP3A7,COX-1およびCOX-2を発現する新規なトランスジェニックマウスを開発し,ヒトの胎児毒性を予測する系として応用することを目指した.岡崎基礎生物学研究所所長の勝木元也教授,株式会社ジェンコムとの共同研究により,ヒトCYPIA1,CYPIB1,CYP2E1,CYP3A7,COX-1あるいはCOX-2遺伝子を全て,複数組み合わせ,あるいは単独で有するTgマウスを作出した.このうち1系統(36p)に関しては,胎仔期にCYP2E1を除く5分子種が発現していることをRT-PCRにより確認した.他の系統に関しても現在発現の有無を確認中である.妊娠9日目のTgマウス(36p系統)にサリドマイド(100mg/kg)を腹腔内投与し催奇形性試験を行った.その結果,サリドマイド投与群で臍ヘルニアが1胎仔確認された.また,胎仔死亡および胚吸収率もTgマウスのサリドマイド投与群で高い傾向が認められた.以上のことから,樹立したヒト胎児型Tgマウスが化学物質によるヒト胎児における毒性発現の評価系として有用であることが明らかとなった.今後,さらに多くの系統を樹立し,また,様々な化学物質について催奇形性試験を行うことにより,本試験系の有用性を評価する予定である.
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