研究概要 |
本研究の第一の成果は,比較的安価な溶液分注機を改造して,高速結晶化装置を開発したことである.従来,タンパク質の結晶化条件の検索にあたっては,10mg/ml程度に濃縮したタンパク質溶液を1条件あたり1〜2μL使用することが一般的であった.また,400条件程度の異なる結晶化実験をセットアップするには,数時間から半日以上を要していた.本研究開発では1条件に必要なタンパク質試料ボリュームを500nlまで減らし,かつ96条件の異なる結晶化実験のセットアップを,自動的に約4分で実施出来る装置を開発した.これによって,従来よりもより少ない蛋白質量で,より多くの結晶化条件を試すことが出来るようになった. また,本研究の第二の成果は,成長した蛋白質結晶の結晶性,すなわちX線回折能を結晶化実験の条件のままで評価することの出来るデバイスを開発したことである.タンパク質結晶のX線回折能は,一般に結晶の外観の美しさに比例しない.したがって従来,生成・成長したタンパク質結晶の評価を行うためには,結晶が成長している結晶化ドロップから任意の1個の結晶を取り出し,これにX線を照射してX線回折能を確認するというプロセスを必要としていた.しかし,この操作は結晶に物理的なダメージを与え易く,また,操作に熟練と時間を要すため,多数の条件で生成した結晶のX線回折能を迅速に評価し,その結果を比較して,結晶化条件にフィードバックすることに時間がかかり過ぎていた. これら本研究による2つの成果により,本研究室は極めて独創的な迅速結晶化・結晶評価システムを保有することになった.これらは,今後,本研究室で実施されているタンパク3000プロジェクトの重要な要素技術として利用される.本研究成果によるシステムに対しては,国内外の研究者からの問い合わせもあり,今後もさらに改良を進めることが望まれる.
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