現象学運動は、他の分野にも大きな影響を与えた20世紀のもっとも重要な哲学運動である。本研究は、前世紀初頭から今日にいたる流れのなかで、ある哲学的基礎から成立して、たえず受容と批判とを経ながら当の追究する問題そのものにかられて変貌し、対決・分岐・統合を繰り返しつつ生命力を保つ知的運動である点を、運動の理念に即して解釈しようとするものである。 本研究においては検討の基軸を以下の点におく。(1)創始者フッサールにおける彼のプログラム的見取り図とそれに沿いつつなされた彼の具体的分析と齟齬に着目しつつ、そこから閃き出る新たな分析のうちに問題提起の展開と深化を見ること。(2)ハイデガーのフッサール批判を現象学的流れのなかで再考すること。(3)メルロ=ポンティの思想にフッサールおよびハイデガーとは異なる方向での新たな哲学的思考の展開を見、それが彼以降の現象学のなかでさらに進められるとともに、現象学の最先端への展開を開いたこと。 『現象学の基礎』において、まず現象学運動全体の見取り図が画かれて、西欧哲学におけるその歴史的位置が論じられた。さらに、歴史的に現象学の中心的な問題を「経験・生と知」、「意味と実在」、「知と実践」、「方法論としての還元と解釈」、「主観性と超越論性」、「時間性」、「世界論」、「生活世界」、「身体性」、「他者・相互主観性」、「倫理」、「歴史性・社会性」にしぼり、ギリシア以来の西欧哲学に登場した古典的な見解とも対比させながら、これらの問題群においてもっとも代表的な現象学の主張がどのような問題意識と立場からなされたのか、またその限界がどのようなものであるのかを考察し、最後に「現象学の意義」について論じ、今後においてのその可能性が何であるかについて考えた。
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