明治30年代以降、告別式や神前結婚式に代表される宗教式結婚式など、近代的な人生儀礼の様式が次々考案された。これらは日本を文明するという機運、簡素化・合理化の主張としての風俗改良運動、社会教育における宗教の役割といった時代の問題と関係していた。その一方で日本の伝統的宗教習俗の多くは、文明に反する迷信として排除の対象となったが、「家」に関連する部分(たとえば「祖先教」など)は天皇制との関係で残された。近代的な人生儀礼は、都市的な生活様式に適合するものであるとともに、「家」的なイデオロギーと密接に結びついていたといえる。 当初一部インテリ階級のみによって実行されてきた告別式や神前結婚式は、昭和になってから都市市民、特に戦後の高度経済成長期以後には、地方全国に広がった。1970年には、それまで大会社しかおこなっていなかった「社葬」を、創業者の葬儀のために中小企業においてもおこなうようになり、「村」-「家」に擬制したような企業間の贈答関係が成立し、葬儀は華美なものとなった。 その一方で少子高齢化、核家族化によって「家」制度は徐々に壊れ、1990年代には継承者いらない墓地、散骨(自然葬)等々の運動が起こった。これらの運動の主題は「どう葬るか」ではなく「どう葬られるか」にあり、従来の葬儀慣習が強制力をなくし、葬儀のあり方が多様化していることを示している。それによって人々の葬儀や死に対する考え方は個人化し、葬儀の社会儀礼としての意味づけが弱められてきている。
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