研究概要 |
本研究を始めるきっかけとなったのは,平成11年8月に広島で行われた国際伝統音楽学会(ICTM)第35回世界大会において,"Musical Structure and the National Identity of Music"というテーマで本研究の代表者と分担者の5名がパネル発表を行ったことである。 本研究の代表者と分担者の5名は,いずれも戦前のさまざまな洋楽受容にかかわる問題から出発して研究を行ってきたが,本研究はそこに国民性(national identity)という問題軸を設定することによって,各人の多様な研究方法を生かした形で広島パネルでの成果を深化・収束させようとの趣旨から生まれたものである。研究方法の多様性はこの5名の長所でも難点でもあって,幅広い視点や問題関心の中から共有しうるポイントを掴みだし,テーマに即して議論をかみあわせるのは,実際は容易なことではなかった。しかし最終的に,少なくとも各人が今まで抱えていた問題のいくつかについて,この2年間の共同研究によって位置づけが明確になり,新たな論点を提示することができたと考えている。もとより,テーマとした研究課題に本報告書が十全な答えを示しえたとは言い難いが,近代日本の音楽と国民性の問題を考える際の手がかりの一つになりうるものと自負するゆえんである。 2年間の研究期間中には,計8回の研究会やミーティングを開催して意見交換を行った。とくに,本年2月の最終研究会には,テーマと関連した研究を行っておられる植村幸生,奥中康人,細川周平,渡辺裕の4氏にご出席を依頼し,発表あるいはコメントの形で本共同研究または報告書の作成にむけて多大な御協力を賜った。
|