研究概要 |
本研究は,従来の研究ではあまり進められていない非言語情報の潜在記憶を明らかにし,それによって,意識を必要としない自動的な認知過程の役割を明確化するとともに,加齢との関係についても検討しようとするものであった.また,日常場面における自動性という観点から,環境内に埋め込まれた記憶の自動的使用と考えられる外部記憶およびヒューマンエラーに関する研究を行った. 1)非言語情報の自動的検索 音楽情報の自動的検索に関する研究を行った.音楽情報の重要な要素として,音高的側面であるピッチ情報と時間的側面であるリズム情報とがある.音楽情報が検索される際にそれらが統合された形で検索されるのか,あるいは独立した情報として検索されるのかについて,意識的検索である再認課題,自動的検索を反映すると考えられる疑似有名効果(false fame effect)をもたらす有名判断課題を用いて検討した.その結果,意識的検索ではメロディおよびピッチの両者が統合されており,自動的検索では両者が独立している可能性が示された. 2)潜在記憶と加齢 一般に注意を必要とする検索である顕在記憶は加齢の影響を受けるが,注意を必要としない潜在記憶はその限りでないとされている.今回は数分で終わる簡易な課題で潜在記憶と顕在記憶を検討したところ,70代ころまで潜在記憶成績は低下しないが,顕在記憶は50代から低下の傾向が見られることが明らかとなった.簡易なテストでこれらの点が明らかになったことは,高齢者の記憶能力の評価を容易にできる材料を提供したといえる. 3)処理の自動性とヒューマンエラー 自動的処理のオバーシュートと考えられるヒューマンエラーを防止する手法として,指差呼称と呼ばれる方法の効果を検討したところ,エラー低減効果が見られることが明らかとなった.
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