研究概要 |
本研究では、顔に含まれる情報の中でもとくに表情と視線(顔向き)に焦点をあて、これらの情報の認知処理・情動処理の過程を、表情静止画、表情動画を用いて検討した。手法としては、検出、同定、分類の精度や反応時間、あるいは情動評定といった行動指標の分析を中心に、神経科学的手法も加えて,表情・視線認知過程をコミュニケーションにおける機能という観点から考察した。主な研究成果は以下の通りである. 1,視線・顔向き方向に対する自動的な注意定位が、表情の違いによって影響を受けるか否かを検討した。顔向きによる自動的注意定位現象が確認された。さらに驚き、怒り、喜び表情の顔写真を手がかりとして提示する条件での反応時間を中性条件と比較したところ、顔向き手がかりによる注意の自動定位は情動表情による影響を受けることが明らかとなった。 2 表情画像の初期知覚におよぼす視線方向の影響を検討するために,周辺視野に瞬間呈示される表情静止画の同定精度が顔向きの違いによる影響を受けるか否かを検した。実験の結果、表情画像の正答率は怒り>喜び>中性の順となった。顔が自分の方を向く条件は、怒り表情でとくに精度が高く,他者から向けられた威嚇信号を正確に知覚する認知機構の存在を示唆した。 3 中性表情から情動表情まで徐々に変化する動画クリップを作成し,変化速度の異なる表情動画から読み取られる情動に関して,表象モーメント知覚課題,自由記述,自然さ評定により検討した.その結果,表情動画の知覚で表象モーメントが生じ,動画クリップの最終画像はより情動強度の強い表情として知覚されること,変化速度の違いにより,読み取られる情動には質的な違いがみられること,表情変化の自然さ評定では,悲しみを除く5情動では提示速度が早いほど自然だと評価されるが悲しみでは遅い提示速度でより自然だと評価され,各情動表情の表象には動的特性も含まれていることが示された.
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