| 研究概要 |
半側空間無視は大脳半球の対側の刺激に反応せず,またそちらを向こうとしない症状で,脳損傷の後遺症として出現する神経心理学的症状の中でも頻度が高く重大な障害である。このため,半側空間無視のリハビリテーションが重要であるが,これまで様々な試みがなされてきたにもかかわらず効果的な訓練法は未だ開発されていない。その理由のひとつとして半側空間無視が複合的原因によって生じることが考えられる。半側空間無視は空間性注意障害と深く関係しているが,我々は非空間性の汎性注意障害との関係も重要と考えている。方向性を持たない課題において成績不良を示す無視患者の報告が散見され,我々も実感しているためである。
本研究では汎性注意障害を呈する半側空間無視患者を対象に,言語機能を用いることによって患者の行動を制御する可能性を探ることを目的にいくつかの課題を考案した。いずれにおいても課題自体は半側空間無視を鋭敏に反映するとされる検査法である。一般的な方法で課題を行う条件と課題遂行の過程で言語機能を介在させ,自己の行動を意識化させる条件を設け,後者におい半側空間無視が改善したならば,それは言語を用いた課題遂行攻略を患者が有効に用い自己の行動を制御できたためと解釈できる。
初年度には高齢者に対する実験条件の妥当性を確認し,翌年から上記実験デザインを用いた課題の開発と検討を行った。研究終了年度には研究の意図に沿った精巧な課題を考案し,無視患者が言語を通して行動を制御できる可能性を明確に示すことができた。結果の一部は雑誌および学会発表の形で公表され,現在最終的な結果をまとめて国外の一流誌に投稿準備中である。
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