研究概要 |
学校での事故やいじめの報告,診断のための症状の報告,犯罪の目撃や被害の報告など,子どもが出来事を正確に語るよう求められる場面は少なくない。本研究の目的は,特に事情聴取の場面において,(a)子どもはどの程度,過去の出来事を正確に語ることができるのか,(b)子どもが過去の出来事を語る際,大人はどのような態度を取りがちであるのか,(c)どのような面接を行えば,子どもはより正確に過去の出来事を語ることができるのかを,明らかにすることであった。 このことを達成するために,3つの柱を立てて研究を行った。第一は,現実の事情聴取における問題点を明らかにするための事例研究(事情聴取や法廷尋問の分析)と,そういった事情聴取における質問の評価実験(情報を得るのに効果があるのか)である。現実の事例ではクローズ質問や「法律家言葉」による質問(文が長く,否定形,代名詞,文の埋め込みが多く,誘導形である)が多いこと,こういった質問は子どもの自発的報告を妨害することが示された。 第二は,一般に大人は幼児から出来事を聞き出す上でどのような質問を行いがちであるかを調べる実験研究である。3〜5歳児とその親を対象とし,過去の出来事をめぐる会話を収録し,分析した。その結果,クローズ質問や確認質問,「何をした?」質問が多いこと,質問は幼児の発達に伴い減少することが見いだされた。この他,情報提示の繰り返しや遅延の効果についても検討し,これらが出来事の記憶の検索を妨げることを示した。 第三は,諸外国での面接法やその使用についての調査,それにもとづくガイドラインの作成と提案,およびその評価実験である。文献調査,視察,および上記の成果を勘案してガイドラインを作成し,専門書のみならず法曹実務家向けの雑誌にも掲載し,成果の社会的還元を試みた。また,ガイドラインの評価を事例的に行い,現実の事情聴取への適用も試みた。 以上の3方向からのアプローチにより,目的とした成果は得られたと考える。しかしガイドラインの評価や訓練が十分にできなかった点,「大人からの質問」に焦点を当てたために,「子どもがどのように語るのか」という側面について十分な調査が行えなかっことが今後の課題として残されている。
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