研究概要 |
本研究の目的は、視覚的補完(visual completion)の一種である視覚的ファントム(visual phantom)とステレオキャプチャ(stereo capture)の関係を明らかにすることである。これまで両者の相互作用はこれまでほとんど検討されて来なかったが、両者は(1)主観的輸郭の生成と充填を伴い、(2)図地分離に関連した立体視を伴う、という点で類似性が高いと思われる。異なる点として、視覚的ファントムが透明視との関係が強く疑われるのに対し(Kitaoka, Gyoba, Kawabata and Sakurai, 2001, Perception, 30, 959-968 <本研究による発表論文>)、ステレオキャプチャでは遮蔽視との関連が指摘されている(Vallortigara and Bressan, 1994)。本研究においては、このように類似性の高い視覚的ファントムとステレオキャプチャの諸特性を比較し、共通する特性の抽出・同定および両現象に独自の特性の把握を通して、視覚的補完現象の本質的なプロセスを探り出すことを目的とした。 その結果として、視覚的ファントムに特徴的な空間周波数特性がそのままステレオキャプチャにも見られることがわかった。このことは、これら2つの現象には何らかの共通したメカニズムが横たわっていることを示す。一方、誘導刺激を透明面を使うものと使わないもので比較すると、前者では視覚的ファントムが起きやすく、後者ではステレオキャプチャが優勢であった。以上のことから、視覚的補完としては両者は共通した土台を持ち、誘導刺激が透明面を持つかどうかで最終的な知覚がファントムとなるかステレオキャプチャとなるかが決定されることが示唆された。 本研究は視知覚における面形成のメカニズムの解明に重要な知見を提供できたと考えられる。
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