研究概要 |
半側空間無視は右大脳半球損傷に伴い,高頻度に発症する空間性認知障害である.患者は自分の左側に存在する事物や事象を認知することが困難になり,あたかも左側の空間が失われたように振舞う.これらの患者を評価するため,幾つかの評価法が開発され,実際に利用されているが,こうした評価法と,患者のリハビリテーションのために日々施される訓練法とで,課題が類似するため,評価技法に対して学習や代償行動が生ずることがある.本検討では,訓練技法に対して堅牢な検査課題として,錯視図形を用いた評価技法を用い,その有効性を検討するとともに,評価法が測定する患者の認知構造について検証を行った.本研究は,5つの検討からなっており,検討1,2,3ではWundt-Jastrow錯視図形を用いて,半側空間無視患者の視覚認知特性を明らかにすることを目指した.また,検討4,5ではこれらの検討で問題となる点について,補足的検討を行った.検討1は脳梁損傷患者に課題を適用し,検査としての特徴を明らかにした.検討2及び3においては左半側空間患者の注視点をアイカメラにより記録し,錯視図形を用いた検査と従来の線分二等分試験における眼球運動の特徴を明らかにした.また,検討4ではその注視点の動きについて,更に詳細な検討を加えた.検討5では患者の反応に関して注目した.一連の検討を通じて,錯視図形を用いた左半側空間無視の評価法は従来の評価法と比較して,無視患者の視覚認知特性を検出しやすく,単独であるいは他の検査と組み合わせることによって,無視患者の状態を明らかにする方法として有効であることが示された.
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