研究概要 |
本研究では,心を理解する能力の発達について,主に自己と他者のパーソナリティ特性の理解の観点から研究を行った,具体的には,この特性概念の理解について,小学生を対象として,実際に使用している特性語を収集し分類した上で,(1)自己と親しい他者に対する特性の帰属,(2)一定の情報を与えられた架空の他者についての特性の帰属,(3)一定の特性情報にもとづく行動の予測を求め,特性概念の理解の発達的変化を検討した.また,それに加えて(4)特性情報が皮肉の理解に与える影響についても検討した. その結果,(1)自己に対する特性の帰属では,小学校低学年ではポジティブな特性を中心とした帰属が行われる傾向があるのに対して,年齢の上昇に伴ってポジティブな特性とネガティブな特性を同程度帰属するようになり,自己のパーソナリティを多面的に認知するようになっていることが明らかとなった.(2)一定の情報を与えられた架空の他者に対する特性の帰属では,外見と行動の情報が矛盾する場合には,基本的に行動情報を重視した帰属を行う傾向があり,これは年齢の上昇につれてより明確になることがわかった.(3)一定の特性情報にもとづく行動の予測では,低学年ではステレオタイプな行動の予測(特に社会的に望ましい行動傾向の予測)がみられるが,高学年では与えられた特性情報と予測する行動の状況との類似度に応じて的確な予測を行うことが確認された.(4)皮肉の理解においては,皮肉の発言者の特性情報がネガティブな場合に一定の理解が可能であるものの,特性情報が皮肉と一致しない場合には,皮肉を理解することが困難であることが明らかになった. 以上の結果から,子どもは児童期の終わり頃までに特性の帰属とそれにもとづく行動の予測という基本的な特性概念の理解が可能になり,個人差を考慮した心の理解が可能になることが示唆された.
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