自尊心と表明された自己評価との関係について、態度研究で用いられてきたbogus-pipelineテクニックを用いて、被験者の真の自己評価を知るための実験を行った。このテクニックでは、生理的指標によって本当の態度が測定可能だという教示を与えて、自己呈示が効果をもたないことを伝えることにより、被験者が本心を回答することを期待する。bogus-pipeline条件では被験者の自己評価は生理的な指標によって測定できることが告げられ、被験者はその生理的な指標による自己評価を「予測する」ように言われた。一方、コントロール条件では、そのような操作は行われず、ただ被験者は自己評価について尋ねられた。その結果、コントロール条件では、これまでの結果が再現され、一方、bogus-pipeline条件ではSP特性(自分にとって利益になる特性)の評価がコントロール条件よりも高くなり、OP特性(他者にとって利益になる特性)の評価がコントロール条件よりも高くなるという結果が得られた。この結果は、日本人の真の自己評価が決して自己に対してネガティブなものではなく、自己呈示によって大きく影響されていることを意味する。さらに、こうした解釈の妥当性を検討するために、SP特性やOP特性を高く自己評価している他者をどのように知覚するかについて実験を行った。その結果、SP特性を高く自己評価している者は、OP特性を高く自己評価している者よりも好まれないことがわかった。この結果は、SP特性に関して高い自己評価を表明することは、少なくとも、日本文化の中では適応的ではないことを意味する。以上の実験結果から、日本人が表明する自己評価は他者に対する自己呈示によって、本心からずれたものになっていると考えられる。具体的には、SP特性を過小評価して見せ、OP特性を過大評価して見せていると思われる。
|