【平成13年度】日常私たちは既有知識を組み合わせることによって新しい情報を導き出すための思考方略を用いて問題解決する。思考方略のうちカテゴリーの包含・階層関係に基づく自発的な代替例を検索する条件推論(後件肯定・前件否定)を取り上げ、幼児・児童・大人を対象にして検討した。その結果、加齢とともに条件推論が可能になること、また、単純に既有知識を当てはめるのではなく、カテゴリーの包含・階層関係に基づく自発的な代替例が検索できるようになること、大人でも知識当てはめ的推論が残存することを確認した。 【平成14年度】平成13年度の知見を踏まえて、生物学的・物理学的な現象の説明に用いる理由づけシステムにおける領域知識の獲得と推論枠組みの関係について検討するために2つの実験を行った。実験1では、3・4・5歳児と大人合計120名に自然現象の条件推論の形式を翻案した4つの問からなる「説明課題」を与えた。実験2では5歳前半児、5歳後半児と大人合計90名に実験1と同じ形式の説明課題を与えた。これらの課題は既知文脈と未知文脈に埋め込まれている。被験者は2度のWH質問に対して詳細な理由づけを行った。実験結果は次の通りである:(1)幼児は説明課題の解決において大人に匹敵するような推論を行った。(2)3歳児すら帰納推論だけではなく演繹的推論を行うことが可能であった。(3)幼児は、心の理論や生物学、物理学などの分化した領域知識に基づいて柔軟で適切な説明を行うことができた。子どもの(4)領域固有の知識を獲得するに伴い、領域一般の推論スキーマに基づく帰納的推論や演繹的推論が活性化された。また、大人の説明は、推論を働かせた非常に洗練された説明か、機械的記憶のあてはめによる資源節約型の説明のいずれかに二極化した。(1)と(2)の結果は、推論枠組みは領域一般の知識であることを含意している。一方、(3)と(4)の結果は科学的知識の増大は帰納的推論や演繹的推論を活性化するのに強い影響をもつことを示唆している。
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