研究概要 |
本研究は,(1)聴覚的,音韻的短期記憶に関する評価方法の精緻化;(2)発達障害児を対象とした評価の実施;(3)聴覚的,音韻的短期記憶に困難を有する発達障害児の事例的検討,の3つ下位プロジェクトにより構成された。 (1)では,事象関連脳電位における指標として聴覚オドボール事態におけるP3(P300)に注目した。受動条件と能動条件を設定し,受動条件で安定してP3が測定できる検査条件について検討した。(2)では,知的障害養護学校に在籍する発達障害児66名を対象として,(1)で開発したP3指標による検査を実施した。受動条件でのP3測定が重度知的障害を有する子どもを対象とした評価方法として適用可能なこと,受動条件と能動条件の組み合わせでP3測定することで音韻的短期記憶能力の自動的側面と方略的側面を区分して評価可能であることが明らかになった。また,行動指標として非単語復唱課題を実施し,この検査方法が発達障害児の音韻的短期記憶を評価する上で有効であることを確認した。 (3)では,音韻的短期記憶に困難を有する事例を対象として,各種神経心理学的検査(WISC-IIIやK-ABCなど)を実施し,その検査の結果も踏まえた上で,個別指導計画の作成を試みた。 研究成果を総括すると,生理指標である事象関連電位P3による評価と行動指標である非単語復唱課題による評価のそれぞれの臨床的有用性について確認された。今後,さらにこの評価法の応用的価値を確認するためには,両者の関連性に関する検討と適用年齢の幅を広げた研究が必要である。
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