研究概要 |
本研究は,青年期における危機体験と内省,対人関係などの諸変数が,青年の自己の発達に及ぼす影響に関して検討し,従来の青年心理学で想定されてきた危機の効果の有無について実証的に明らかにすることを目的とする。 まず,調査研究の基礎となる尺度の作成を行うため,高校生および大学生に対する質問紙調査を実施した。(この結果は研究成果報告書の研究成果1,2として納められている。) 次に,大学生に対して危機体験,友人関係,内省の程度,および自己の諸側面に関する質問紙を短期縦断調査を実施した。調査は,3つのコホートについて行われた。 その結果,内面的関係(自己閉鎖の逆転得点)と私的自己意識の間には負の相関関係が見られ,内面的関係が内省的関係を促進することが見出された。また,「傷つけられることの回避」得点が高い者が,その後の調査で内省傾向が高まることが見出された。このことは,自らの傷つきやすさに目が向くことが,内省を促すことを示唆するものである。 さらに,調査時点での同時的な内省(現在の内省)は,「やさしさ」,「まじめさ」での現実自己,「個性」,「やさしさ」,「まじめさ」の理想自己,「個性」「やさしさ」「まじめさ」での重視自己と相関が高く,内省が,自己の内面的な属性の発達に関わることが示された。 またライフイベントとしての危機体験については,対人的イベントについては肯定・否定ともに,より発達的に低い水準を示す表層的自己の側面との関連が見られ,達成的イベントでは,肯定的イベントにおいては,むしろ発達的に高い自己の側面と関連することが見出された。このことは,従来考えられてきたような,青年期における様々な危機体験が必ずしも自己の発達を促進するだけでなく,むしろ発達を抑制する機能も持つことを明かにしたと考えられる。
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