研究概要 |
逸脱行動や向社会的行動に関連する子どもの認知と親の価値の継承に関する子どもの認知について3つの研究を行った。 研究1では,向社会的行動をしないという骨格情報に加えられた気持ちに関する情報が,人物の特性推論に及ぼす影響を発達的に検討した。行動後に反省して今後の行動を向上させていこうとすることが,人物の特性推論において評価の低さを回復することが小学3年生から見られることが明らかになった。また,大学生においては,意思決定時の当為判断情報が,弱いながらも人物の評価の低さを回復することが見られた。小学生ではこの効果は見られず,意思決定時の当為判断から行動後の気持ちを推測する枠組みは形成途上であることが考察された。 研究2では,道徳的・慣習的違反のあとに,謝罪などの向社会的行動をとるか,それとも逃避などの非社会的行動をとるか,の推測に関して,罪悪感と恥の感情を媒介にして検討した。年少の子どもでは道徳的・慣習的を問わず,違反行動の後には罪悪感に媒介された行動が生じるという推測が優位であったが,6年生以降は違反行動の内容と,その違反行動による他者の苦痛が明示されるかその違反行動が他者に目撃されたかという状況の違いの相互作用で,恥の感情が媒介する行動が生じることも推測していた。 研究3では,小学5年生を対象に,親の価値継承について例話を用いて推論をさせると,子どもが価値を形成していく際に親から影響をうけると考える傾向が見出された。また女子児童においては,特定の価値において,親からはっきり言われるよりも,親の態度を見るほうが価値形成に重要であると考えている傾向が示された。したがって,子どもは親の姿を見て自発的にモデリングを行うだろうという推論を小学5年の女子が行っていることが示唆された。 以上の研究より,小学生の時期から心的過程に関する情報が行動にまつわる認知に影響を与えていることが明らかとなった。
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