研究概要 |
脳血管障害に伴って生じる言語障害一失語症では,話すことのみならず,聞く,読む,書くことが障害され,スムーズなコミュニケーションが困難になる。その結果,外出の機会が制限される,コミュニケーションの機会が少なくなるなど,心理社会的側面の弊害が生じる。失語症者の心理社会的問題を解決する方法の1つとして,失語症ボランティア養成がある。本研究では失語症ボランティア養成のための教育プログラムの開発を目的とした。 まず失語症者と失語症ボランティアとの1対1の会話の中で,ボランティアが使用したコミュニケーション方略が,会話場面にもたらす効果を明らかにした。次に失語症者とボランティアの会話の中から,"よい会話","悪い会話"場面を抜き出し,その原因を見いだした。これらの結果に基づき,失語症ボランティア養成のための教育プログラムのガイドライン作成を目指した。具体的には,過去に,地域社会の人々を対象に計3回実施した「失語症ボランティア養成講座」について,講座概要や参加者の反応,講座後に結成されたボランティアグループの活動内容を整理した。次に,講座で使用したテキスト例を紹介するとともに,基礎編と実践編からなる養成講座ガイドライン試案を作成した。さらに「失語症会話パートナー養成講座」に参加した会話パートナー(失語症ボランティア)を対象に,失語症者と参加者の相互作用を分析した。最後に,すでに医療従事者として働いている人々向けに実施した「福祉・医療職のための失語症コミュニケーション講座」参加者を対象に,講座前後での失語症者との会話の様子について,比較検討を行った。 以上のことから,失語症ボランティアが適切に失語症者と関わるためには,本養成ガイドラインに基づくプログラム講座の受講に加えて,失語症者とのコミュニケーションの実践経験の積み重ねや,各ボランティアの状態に応じた個別指導が不可欠であると思われた。
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