本研究は、生物学的ルーツを持つ幼児の共感性に関して、保護者や幼稚園教諭などから報告された質問紙調査データを、幼稚園で観察をとおして得られた具体的・客観的な行動データよって裏打ちすることを目的としたものである。 3歳と4歳の幼稚園児を持つ保護者110名が、本研究の質問紙調査と行動観察という研究に参加した。幼児が3歳から4歳への変化を考慮に入れた質問紙による分析結果では、保護者は幼稚園教諭と比べて、自分の子の高い共感性を報告していた。また、性差を調べた検討結果からは、4歳の幼児の保護者は、幼児の情動を尋ねた共感質問項目で女児の共感性の高さを示したが、一方、幼稚園教諭は、具体的な共感行動項目で幼児の共感性の高さを評定していた。 次に質問紙調査によって報告された幼児の共感性得点が、実際の幼稚園での幼児の「自由遊び」場面と「(比較的軽微なストレスを喚起する)お絵かき実験」場面の両場面における行動との関連で検討された。その結果、保護者の報告による幼児の共感得点は、幼児の具体的な共感行動との関連は見受けられなかった。しかしながら、教諭からの報告では、お絵かき実験場面では、行動レベルの低い、すなわち、おとなしい子どもに対して、高い共感性が評定されていることが明らかになった。 このように保護者と教諭は、幼児の共感性を異なった視点からとらえ、保護者は幼児の情動面から、教諭は子どもの行動面から共感性をとらえているという、評定者間の差が明確になった。
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