研究概要 |
まず,向社会性についての認知の形成過程に関して,(1)向社会的行動後に,原因帰属の手がかりが示された場合には,行動の原因を内的要因へ帰属するほど向社会性についての認知が高くなること,(2)大人からの手がかりがない場合には,幼児自身が向社会的行動結果について,なぜ効果的な援助ができなかったのかふり返る,あるいは,行動に至るまでの向社会的行動葛藤をふり返ることが,向社会性についての認知の高さに結びついていることが示された。発達初期の幼児期においては,向社会性についての認知の形成過程は1つの経路ではなく,(1)大人の援助(帰属教示や手がかりの提示)に支えられているものと,(2)行動についてのふり返りといった幼児自身の自発的なもの,の2つの経路が存在することが示唆される。また,「評価を含めての結果」に該当する段階では,(2)発達的な課題が含まれる向社会的場面での行動をどのようにふり返り,幼児自身が場面を再構成するかが,向社会性についての認知の形成に重要な影響を与えていることが示された。次に,向社会性についての認知の役割に関して,(3)向社会性についての認知の高いことが,仲間との相互作用の多さと関連し,遊び集団内で友だちの困窮状況への遭遇回数,改善回数(向社会的行動の出現)を高めていることが示された。しかし,そればかりではなく,(4)向社会性についての認知が高いことは,遊び集団外の友だちの困窮場面に対する気づきも促し,困窮状況改善回数(向社会的行動の出現)を高めている。このように,向社会性についての認知は仲間との遊び場面に関与し,向社会的行動の出現に影響を与えているという(3)(4)のような過程が示され,幼児期における向社会性についての認知の新たな役割が明らかになった。こうした結果は,幼児が,日常の遊び場面で対人関係である向社会的行動を学習していることを示すものであり,発達初期の幼児期においては,「遊び場面」が向社会的行動の発達や育成に重要な役割を果たしていることが示唆される。 また,幼児がいかに自らの自己制御機能を発揮させて向社会的行動を行っているかについては,(5)自己主張・自己抑制の高低により自己制御についての認知に個人差があり,自己主張、自己抑制に対する認知がともに高いタイプの幼児は、他者の困窮状況を配慮した利他的な動機づけから向社会的判断を行う者が多いこと,(6)自己抑制についての認知が低いタイプの幼児は,遊び場面で仲間との相互作用が少ない傾向が示された。これらの結果から、幼児自身が、自己主張できる、自己抑制できると認知することが、向社会的場面での行動判断を利他的な方向へ導いていること,自己制御についての認知の個人差は幼児期における向社会的行動の学習に関与している可能性が示唆された。
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