研究概要 |
一般的に高齢者の認知・記憶機能は,加齢の影響によって低下していくといわれている.そこで,認知・記憶のどのような側面において支障をきたしていると自覚しているかを明らかにすることを目的とし,検討を重ねてきた.結果は専ら因子分析によって因子を抽出し,項目の整理を行ってきた. 2回の予備調査を行い,質問項目の検討を行った。それらの予備調査の結果に基づき,東京都世田谷区において訪問悉皆による本調査を行い,2332名のデータを解析した。さらに,尺度の妥当性,確認を行なうためにも調査を行なう新たな必然性が生じた.また,首都圏都市部のみのサンプリングでは偏りあったことなども考えられた.そこで宮城県気仙沼市大島地区において訪問悉皆調査を再度行い,927名の健常な高齢者のデータを解析した。 これらの調査により,「人の喜びの表情がわかりにくいですか.」などの項目から「表情認知」,「コンピュータを使えるようになりたいですか.」などの項目から「情報機器への期待」,「楽しみにしていた予定や約束を忘れますか.」などの項目から「展望的記憶」,「公衆トイレの男女の標識がわかりにくいですか.」などの項目から「環境認知」,「20歳代の頃のことがはっきりと思い出せますか.」などの項目から「自伝的記憶」,「忘れないよう,メモやカレンダーを利用していますか.」などの項目から「記憶補助」と命名した6因子の再現性が確認された。サンプリング方法や調査対象者数などからも,これらの因子の頑強であることが考えられる。 さらに,都市部において抽出された「記憶」に関する因子の再現性は,地方都市では確認できなかった。しかし,新たに「言おうとしたことを忘れてしまったことがありますか.」などの項目からなる「忘却」および「覚えていることが難しいですか.」などの項目からなる「保持」と命名可能である新たな2因子が抽出された。
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