本研究の成果の概要は次の通りである。(1)発達疎外の発生は発達過程各段階の課題達成の適否にかかっている。(2)課題達成が不十分な場合でも、低年齢のうちに教育福祉援助を開始すれば発達疎外は予防できる。(3)この場合、親(家族)の理解の有無が援助の可否を決定づける。(4)年長少年の場合は、発達疎外をきたした段階と主要因を正確に把握すれば回復が可能である。(5)この場合、当該少年を受容できる通常の第一次集団の有無が重要課題になる。 研究の過程で洞察し得たのは広義のこころの発達が、人の生涯(ライフコース)において、身体的・感情(狭義の心)的・社会的・実存(主体)的諸側面の経験と密接に結合していることである。多くの事例から推測して、その発達の概要は次のように想定される。 1)適切な栄養・運動・休養等により脳・神経系が発達し、感覚・知覚が芽生える。 2)受容・肯定的世話を受け、感覚・知覚から情緒が芽生え、感情が発達する。 3)感情の交換・共感を通して人間関係が芽生える。それは更に社会参加を通して集団の中で社会関係を結び、社会的役割・文化等を習得し、社会性を培う。 4)自然・社会・他者(人間)との関係の中で自分の意思・信念・価値観等の実存に触れ、現実の環境との調節を通して主体性を涵養する。 発達疎外は、以上の過程において、発達環境との間に大きな齟齬をきたしたとき生ずることが解明されるのである。
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