研究概要 |
本研究は,老朽密集住宅地区再開発において生起する諸問題を通して,わが国の今後の都市再開発のあり方を「人間の理論」に基づく人間遡及的・行動論的アプローチによって究明することを目的としている。 3年間に亘る研究期間に、われわれは大阪府豊中市庄内野田地区および大阪府寝屋川市萱島東地区の2つの再開発地区を事例として取り上げ、調査地区の歴史的背景,経済的・社会的実態の把握,関連法・条例・制度,再開発関連資料の収集,人口構成・住宅構成,社会資本等々の地域に関する基礎的なデータの収集,再開発現場写真の撮影等を実施すると同時に、関係諸機関への聴き取り調査、および質問紙による量的調査を行ってきた。 (1)再開発経費と再開発手法 豊中市が公的補助金による面的な再開発を行えたのに対して、寝屋川市が補助金による「誘導」拠点的な再開発に留まっている点である。前者は今後、地方自治体の財政状況の悪化によって次第に実現不可能になるであろう。 (2)老朽密集住宅地区の所有者の零細経営 老朽密集住宅地区は公的補助金を投入せず、市場の自己再生力に委ねていたのでは到底解消することが困難である。 (3)再開発計画の社会的非拘束性 いわゆる「ゴネ得」を容認し得る問題であり、計画は永久に未完のままに終わるであろう。 (4)合意形成過程 豊中市が所有形態ごとの協議会を結成し市当局の主導のもとに合意形成したのに対して、寝屋川市が市当局の誘導を契機とするも、市民自らがそれに呼応することによって合意を形成した点である。そこには地域リーダーの強力なリーダーシップが存在した。 (5)「まちづくり協議会」をめぐる組織形成 当初は行政当局との窓口的性格をもつあるいは所有者の利益を代表する組織として、協議会が設立されている。本来、住みよいまちづくりを目指す構成員による自主的・自発的団体として組織されるべきものであろう。
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