研究概要 |
この研究では,教員の教育活動を個人の業績として評価するためには,どのような条件が必要であり,どのような方法が適切であるかを検討した。その結果は,以下の6項目にまとめられる。 1)適切な教育を行うためには,大学や学部が組織としてその教育に明確な目的を持ち,それを実現する力量を備え,かつ全体としてある種の文化を備えている必要がある。教員個人の業績評価は,このような組織の在り方を支え,補完し,それと調和すべきである。 2)正しい教育評価を行うためには,その機関のカリキュラムの目的が明確に述べられていなければならない。特に教養教育のカリキュラムは,学生の社会参加あるいは生涯学習へのイニシエーションなどの具体的な目標に沿って編成されなければならない。 3)学生による授業評価は,教育方法の改善にも教育業績評価にも有効である。このことは,北海道大学において先駆的に行われた学生による授業評価において蓄積されたデータおよび学生・教員のコメントから実証的に確かめられた。 4)しかし,学生による教育評価をそのまま教員個人の教育業績評価に結びつけるのは避けなければならない。評価のデータは,クラスサイズ,理系や文系などの学問分野の違い,演習や講演など授業形式の違いに強く影響され,かつ受講生の学力分布に依存する。 5)教育の実績に関する客観的なデータおよび学生の授業評価を含むポートフォリオ形式の総合的教育業績評価の方法を提案する。ポートフォリオには,主な担当科目に対する考え方,目標のとらえ方,授業評価に対する本人の見解,および教育に関する研修の履修歴などが含まれる。 6)eラーニンングなど情報技術の発展が,今後の高等教育の在り方ひいては教育評価の在り方に深甚な影響を与えると予想される。
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