研究概要 |
1.自閉性障害児・者の社会的相互作用における困難を改善するためには,彼らが日常場面で他人の顔のどこに注意を向けているのかを知ることが重要であり,それに先立って動画による表情認知の研究が必要であろう。静止画を用いた先行研究からは,自閉性障害児は目よりも口の部分に依存した顔の認知を行っていることが示唆されるが,自閉性障害者が表情動画を見る場合にも,同様の傾向が存在するのか否かは明らかではない。そこで,本研究では,顔の満面,目・眉部のみ,口部のみが変化する動画を用いた若松(2002)の結果から,自閉性障害者2名の反応を仮説として抽出し,19~35歳の自閉性障害者,18~32歳の知的障害者各13名を対象に,この仮説の検証を試みた。その結果,自閉性障害者の方に仮説と一致した反応の総数が多い傾向が認められ,上記傾向の持続が示唆された。また,IQでマッチングした知的障害者の認知成績が全般的に高くなっていた。 2.本研究では、コンピュータで合成した動画を用いた基本的な表情の理解学習のためのコンピュータプログラムの開発について報告する。学習群は9歳から28歳までの11名の自閉性障害児・者であり、統制群は10歳から32歳までの16名の自閉性障害児・者である。学習は2回から4回行われ、学習群の表情理解の成績は有意に上昇した。一方、日常場面での表情理解や表出に関する親や職員の評定では、若干の変化のみが認められた。また、感情強度の評定平均値、感情カテゴリーの平均評定一致率のどちらにも有意差は認められない状態で、動画と静止画の比較を行ったところ、静止画で誤答する割合が動画の場合よりも多くなっており、動画の方が表情の判断が容易であることが示された。
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