研究概要 |
2年間にわたって全国の廻国供養塔データの収集に努め,最終的に6079件を収めるデータベースを作成した。情報源の主体は石造物調査報告書などの地域刊行物である。データはすべて一定のフォーマットでコンピュータに入力した。ファイルはCSV形式とした。以下,収録データの概要を記す。まず地域的分布は,東日本と西日本でほぼ3:2となっており,とくに関東とその周辺に稠密に分布している。年代的には,14世紀に出現し,16世紀にも若干の造立例がみられるものの,大半は18世紀から19世紀半ばの江戸時代中後期に造立されている。とくに18世紀初頭の大量出現は注目される。銘文から知られる造立目的は,(1)廻国成就の供養,(2)中供養,(3)死没廻国者の供養,(4)施宿・施行の供養,(5)廻国者による作善の供養,(6)道標,(7)六十六部納経所の勧請の7つである。「六十六部供養」「日本廻国供養」など典型的な銘文を刻む事例は原則的には(1)に属すと考えられ,最多を占める。このなかには,一字一石経や納経帳の埋納,造仏,勧進など,廻国供養の内容にかかわる情報を刻んだものもある。(2)は銘文に明記する事例は98にとどまるが,実質的にこれに属すものは(1)に次ぐ割合を占めるとみられる。(3)は150~200例ほどで,通常の墓塔とみなしてよいものと,一種の願果たしのために廻国成就の供養塔に準じて立てられたものの2種がある。(4)も百数十例認められ,千人宿の慣行が知られる。(5)(6)はいずれも数十例あるが,独立した造塔ではなく,(1)や(2)のために造立された塔が(5)(6)を兼ねる事例が多い。(5)では架橋が半数以上を占めている。(7)は確実なものは1例のみである。検討の結果,収録データは,狭義の廻国供養塔((1)(2)および(3)の一部),広義の廻国供養塔(前記のものに(4)(5)を加える),関連石造物の3つの範疇に分けることが適当と考える。データベースは,これを機にすべて公開して利用に供する。
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