研究概要 |
本研究は,国際関係史研究を踏まえて,1930年代後半のカリフォルニア湾を含む米国・メキシコ西岸国境海域で漁業に参加したり関与したりした日本人移民が,移民先で築いた現地社会との社会的関係性を明らかにした.社会的関係性を明らかにするため移民が従事した生業にかかわる史料と外交関係史料に焦点を当てるとともに,現地でフィールド調査を行った.その結果,以下の4点が明らかになった.まず,漁業に参入した日系移民は,さまざまな海域からの漁民たちと対抗協力しつつ,本国で高度化していく資本主義的で高い水産漁業技術を導入シンクロさせながら自ら漁業術を高め,米国大水産資本のみならず日本の財閥系の資本を動員しながら,移民先で優位な社会的立場を築いた.また,進出した日本のエビトロール漁業をおこなう水産資本に協力することによっても,このような優位な立場を獲得した.このため,移住先では,対等な競争者あるいは指導者としての自己確定を行っていた.第2に,このような優位さは,移民先が高度な漁業技術を受け入れる準備のあったことも大きな要因であった.米国においては大缶詰会社が,メキシコにおいては近代的な水産業を構築しようとしていた政府が存在していた. 第3に,日本の水産技術の優位性がメキシコ政府による水産技術導入政策をもたらしたが,これは同時に進行しつつあったアジア・太平洋戦争のアジア戦線の悪化にともなう日米関係の悪化の中で,米国政府によるメキシコへの水産技術援助政策を公法63の実施という形で生み出した.第4点として,石油国有化とフランスの降伏という国際関係の悪化の中で,メキシコ政府は日本の水産資本の技術援助を断念して米国に依存し,日本水産資本の存在を背景としてメキシコの水産業に参入していた日系移民の技術的社会的に優位性が失われていった.そして,日米戦争勃発が,漁業の現地化の動きも見せていたその息の根をとめた.
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