研究概要 |
本研究で私は、ローマ共和政中期にラティウムを中心としてエトルリア南部からカンパーニア北部にかけての地域で行われていた宗教を、ローマによるこの地域の政治的統合を視野に入れながら、またこの地域で特に近年盛んに進められている考古学的調査の成果を援用しつつ、考察した。具体的な研究の内容と成果は以下のとおり。 1,前4世紀のローマ史を研究する上で基本となる史料はリウィウス『建国以来』の第2ペンターデ(第6〜10巻)である。そこでこれを平行史料とつき合わせながら読み進め、問題となる箇所については先行研究を参照しつつ解釈を試みた。これは本プロジェクト全体の基礎をなす研究だが、その成果は、現在準備中のリウィウスの翻訳においても生かされるだろう。 2,ラテン人都市ラウィニウムは、ローマの国家祭式ともラテン人同盟の祭儀とも関係が深い。そこで、ラウィニウムの領域で出土した神域、特にラウィニウムの市壁の南側で見つかり、13基の祭壇と霊廟を持つ「南の神域」を研究対象に選び、その発掘史を整理した。そしてこの神域で見つかった碑文、遺構の発掘調査結果、関係する文献史料を検討し、この神域とラテン人同盟の祭儀およびローマの国家祭式との関係についての考察を試みた。研究の成果は、『研究報告』に納められている。また研究の一部を、2003年に韓国の釜山大学で開かれた「西洋古代史に関する日韓シンポジウム」で報告した。今回はラウィニウムを中心に宗教の面からローマによるラティウム支配を考察したが、これを制度(特に、投票権なき市民権の問題)の面から見たとき、またローマと西ギリシア世界(シキリアとマグナ・グラエキア)との関係の上からも、エトルリア人都市カエレが重要である。そこでこの都市とその外港ピュルギに関する研究、及びリウィウスの記述を補足する上で重要なディオドロスの『歴史総覧』第14,15巻の文献学的研究を今後3年ほどで行い、前4世紀のローマ史をラティウムの諸都市及び西ギリシア世界との関係の中で解明することを目指す。 3,前4世紀後半のローマの貴族層の再編により現れたノビレス(貴顕貴族)の支配について、イデオロギー的側面の解明を試みた。具体的には、彼らが社会における自らの優越性を正当化するために用いたイマーギネース・マヨールム(祖先のマスク)に考察の手掛かりを求め、研究の成果を2編の論攷にまとめて発表した。
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