研究概要 |
本研究は,中世ヨーロッパの大学と当該期の社会を繋ぐ媒体として書物を設定し,書物を手掛かりとして、両者の関係を解明しようとする試みである。 本研究では,パリ大学が書籍商の職業活動を規定すべく発した文書,書籍商が行った宣誓文書,フランス王フィリップ4世がパリの書籍商を対象に特権を付与すべく発した文書,合計8点の文書(年代的には1275年から1342年の文書)にもとづいて,書籍商に関する大学の規定,書籍商の行った宣誓内容とかれら享受した特権を検討した。 その結果,大学が定めた規定,書籍商に要求した宣誓事項-教師と学生の研究と勉学に必要な書物の入手を困難にする不当な取引を禁じるとなど-がパリ大学での円滑な研究・勉学生活を可能とすることを目的としていたこと,さらに,大学の要求を受け入れることでその活動に協力することを誓った書籍商は,その代償として,大学の保護下に置かれ,タイユ税免除などの特権を取得したことを明らかにした。 一方,1292年から1353年にかけてパリで活動した書籍商についてみると,その総数は120名程度であること,書籍商の間には,かなり濃厚な家族関係,ないし親族関係が認められること,かれらの店舗はサン・ジャック通りを中心とするセーヌ川左岸,およびシテ島のヌーヴ・ノートル・ダム通りに集中していたことを明らかにした。 これらのことは,いずれも,パリ大学と書籍商が緊密な社会的関係を有するとともに,活動空間を共有していたことを示すものである。
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