研究概要 |
本研究においては,古代イタリアの城壁を代表する事例として,とりわけポンペイ遺跡の城壁について集中的な研究を行い,以下の点において従来の通説を見直す成果を得た。 1)ポンペイ城壁の起源とされるパッパモンテ城壁は,前6世紀という建設時期に関しての通説は承認されるものの,城壁の工法,石材の脆弱性から本格的な城壁としては殆んど機能していなかったことを証明した。 2)次の段階のいわゆる石灰岩直立壁に関しては,従来有力であった前5世紀初頭という建設時期が大幅に下る(前4世紀以降)可能性を,具体的な遺構および遺物研究に基づき提示した。 3)本格的なポンペイ城壁の成立期である石灰岩および凝灰岩の切石積み城壁に関して,とりわけこれらの石灰岩を使用する城壁の機能が不十分であることを示し,従来はかなり時期差があるとされてきた次の凝灰岩を使用する段階との年代が余り離れていないことを,建築学的観点から提起した。 4)ポンペイ城壁の発展の最終段階は前1世紀初頭の城壁上への塔の付加であるとされてきたが,古代学研究所の発掘調査により検出された第9塔は,それよりも更に後の時代に再建されていることが,発掘データの検証および使用建築工法の検討から判明した。 5)古代学研究所の発掘した地区には,19世紀の初頭以来のポンペイ研究史上において,『カプア門』と呼ばれる城門があるとされてきたが,、発掘調査の結果,この城門は存在しないことが明らかになった。このような誤認が生まれた背景を,19世紀の諸史料を綿密に検討することにより解明した。 これら一連の成果の一部は,2002年11月にローマで開催された,国際的なポンペイ研究学会において報告された。
|