本研究は、明治二十年代の女性作家の文章表現の分析・考察ならびに、女性作家の<国民化>の様相を、主に表現構造の中に探り、従来考察対象とされることの少なかった当該年代の女性作家における<国民化>の問題を前景化することをめざしたものである。 その前提として、国民国家の根幹が形成された明治二十年代前後における女性の表象を分析した。具体的対象としては岸田俊子(中島湘烟)をとりあげ、<女丈夫>として表象された彼女が、どのような文脈によって制度の言説へと回収されるのか、それを彼女をとりまく言説の分析によって明らかにした。加えて、女性の政治からの排除の問題についても、明治23年の集会及政社法を一つの軸とできることを、湘烟の事例から具体的に検証した。 次に、明治期の女性表現をめぐるジェンダー機制について、女子用文(女性用手紙の文例集)に見られる文章論を調査・分析した。また個別対象として、女性作家樋口一葉の日記の文章をとりあげ、一人の女性において、<国民>としての教化と表現の交錯が、<和歌>において見られることを前景化し、<和歌>の持つ共同の機制を指摘し得た。さらに女性にとってふさわしい文章が「和文」とされることの意味を考察し、女性性と<国家>がどのように関与するのか、その一端を明らかにし得た。
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