研究概要 |
本研究は,構文の意味と語彙の意味の融合という観点から,言語間の類型論的な相違点を明らかにすること目的としておこなわれた。特に次の2つの仮説の検証が本研究の中心課題と位置づけた。 (1)構文の意味と語彙の意味は構文スキーマによって融合する。 (2)この融合パターンには言語間に類型論的な違いがある。 これらの仮説を基に,所格倒置構文と受動構文についての研究が進展した。その成果は,2002年,フィンランドのヘルシンキ大学で開かれた構文文法理論の国際学会,また,2003年ジュネーブで開かれた第2回国際生成語彙学会において発表された。 その概要は次の通り。日本語と英語に共通して見られる「所格倒置構文」には,一般にこの構文に用いられる動詞が「場所や存在」の動詞に限られるという類似の制約がある。また,同時に,両言語には活動や行為を表す動詞も生起する場合が観察される。この類似性は,両言語が同じ構文スキーマを用いているために生じる。それはまた,日本語と英語の類型論的な相違点につながっている。 次に,日本語の受動文に,ついては,構文スキーマと動詞の意味融合という観点から,(1)間接受動文の動作主句が義務的であること,(2)非対格動詞が生起しないこと,(3)関与と排除という解釈上の制約があることが説明できる。この場合,構文スキーマとして使役のイベント構造を想定する。そして,この構文スキーマは,英語においては結果構文として実現しており,間接受動構文との類似性を持つことがわかる。
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