アメリカ・ルネッサンス期(19世紀前半期)における世界の主な天文学上の発見や成果について調査し、それらが当時のアメリカの文化・文学思潮に及ぼした種々の影響を考察し、分析した。即ち、当時の合衆国の主要な文人・文化人たち(エマスン、ポー、ホイットマン等)の作品や伝記を参照し、天文現象や天文学に関する描写と言及を抽出し、それらを検討することによって彼らが抱いた宇宙についての意識や宇宙観を概観し、その成果をまとめて論文化した。 次にこのような文人たちの中で特にヘンリー・ソローを選び、ソローの代表作『ウオールデン』を中心にして、ソローの宇宙や天文学に関する種々の表現と言及を抽出し、この方面における彼の意識を考察した。その結果、それらが彼の人生上の悟りを表す表現に使用され、また他者に対して人生の見直しを提唱する際にも比喩的に活用されていることが判明した。さらに、我々現代人たちの一般的な宇宙観も参照し、ソローの場合と比較した。ソローが人間を宇宙の中心的な存在と見なしたのに対し、現代人は、人間を宇宙の周辺に位置する孤児というように受け止めているという。このような両者の決定的な見解の相違を指摘した。以上の成果を集約し、論文として発表した。なお、ソローのエッセイ「月」は、彼の夜の散策と自然や天体の観察を主な内容とする作品であり、今回の研究に深い関わりを持つものであるので、作品全体を翻訳し、大学の紀要に発表した。
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