研究概要 |
本研究の目的は、語と句の区別について考察することにより「語彙化」(lexicalization)の概念を精緻化することである。そのために、本研究では主として2つの構造を取り上げた。一つは複合名詞の非主要部として生起する「形容詞-名詞」形である(例:英語のblackboard eraser, small car driver,日本語の「黒板消し」)。英語、オランダ語、日本語、中国語を例に、後者2つの言語では、「形容詞-名詞」形はすべて意味が多少なりとも不透明で語彙化されているが、前者2つの言語においては「形容詞-名詞」形は語彙化されているもの(例:上記のblackboard eraser)ばかりではなく意味が透明で語彙化されていないもの(例:上記のsmall car driver)も可能であることを指摘した。このsmall car driverのような複合語はしばしば句を内部に含む「句複合語」(phrasal compound)と見なされてきた。しかしながら、このような複合語の「形容詞-名詞」形は形態的緊密性(lexical integrity)の原理に従うので句ではあり得ないということを指摘した上で、この形はKageyama2001の提案するWord Plusの範疇に属する表現であると主張した。つまりこの範疇は語つまりX^0より大きいが、しかし形態範疇であり統語範疇ではない。 本研究で扱ったもう一つの表現は名詞の前に生起する以下のような表現である:after-the-party mess, clear-the-air statement, middle-of-the-road figure。このような表現は形が固定しており語の形態的緊密性の原理に従うなどの理由で、語つまりX^0として再分析された句、つまり語彙化された句(lexicalized phrase)であると主張した。さらに上記のような表現は、脱範疇化(decategorization)(例:after-party mess, middle-of-road figure)やtheとaの生起などの理由により、イデイオム(idiom)としての性質をもつということを提案した。
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