本研究は、パスカルの計算機に関し、工学的・技術的側面と思想的側面の両面から、総合的な検討を加えることで、彼の思想の独自性を解明することをめざした。具体的には、以下の諸点を検討課題とした。 (1)パスカルによる計算機文書の綿密な検討(文書の構成、思想的意味など)、(2)計算機の評価をめぐる同時代の証言など、周辺資料の検討、(3)計算機の技術的・工学的側面および製作上の諸問題の検討、(4)パスカルの思想全体における計算機体験の意味づけ、(5)その他(計算機文書の翻訳、関連年譜と書誌の作成など)。 これらの課題をもれなく検討することにより、パスカルにおける計算機体験の思想的意味を明確にした。すなわち、(1)計算機文書が、一部の学者による計算機批判と偽造品の出現という、2大事件に反駁し、自己の発明品の擁護をめざした論争文書であることを明らかにした。(2)「秩序と侵犯」という統一的観点の導入により、計算機の開発が、主著『パンセ』へ至る思想的展開の重要な一環であることを示した。(3)計算機の「発明」時期の再検討、数え札計算法との比較、使用法の問題、決定型の改良過程など、技術的・工学的側面にも立ち入った検討を加えた。さらに、(4)計算機関連文書の完全な翻訳、および関連年譜と網羅的な書誌を作成した。 これらの成果を通して、パスカルにおける計算機体験は、もはや孤立した一閉鎖領域を形成するのではなく、彼の思想的発展と深化の重要な一過程としてとらえ直せることを示した。こうして本研究は、パスカルの計算機に関する、初めての総合的研究となった。
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