研究概要 |
3年間の研究は,「視点」概念を軸にして,文構造と動詞の関連という点から日独両言語を対照することだと要約できる.日本語の文では文構造が常に明示されるとは限らないのに対して,ドイツ語の文では通常は文構造が明示され,動詞も場合によっては文構造に適応して柔軟に用いられうる.すなわちドイツ語は日本語と比べると「文構造優位」と言える.文構造優位ということは,文構造の「柱」となる主語や対格目的語が際立たせられるということであり,「視点」に関連付けるならばドイツ語の構文は「注視点」志向だということになる.一方,日本語では「視座」の違いに応じて異なった動詞表現が用いられる.つまり,誰の側に立って出来事を眺めるかによって使用可能な動詞が変わり得るのである.日本語では「視座」-単に物理的に「どこから見るか」という位置ではなく,話し手がそこに心理的に接近して事態を描く主観的な立場-が動詞表現の適格性や自然さに影響を与える場合が多いのに対して,ドィツ語では文の形成にこのような「視座」は関与しないということになる. 日本語との対照の基礎となるドイツ語の記述的研究として,「動詞前つづりの分離・非分離」「不変化詞動詞と対応表現」について論文を発表した他に,格と前置詞の基本的な用法を広く概観した. なおこれらの研究を通じて,「一方の言語の眼鏡をかけて,他方の言語を見る」のは対照研究の方法として決して誤りではなく,むしろ重要であるという認識にいたった.
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